週休たくさんで主にスペインサッカーを分析
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「さて」

「どうした」

「スペインリーグでは、レアル・マドリーの優勝が決まった」

「最後の5分で1点差を引っくり返すという劇的な勝ち方やったな」

「そこで今日は、それとまったく関係のないサラゴサ対デポルティーボ・ラコルーニャ戦をおとどけしようと思うわけだ」

「それはいかがなものかと」

「降格争いも大切かと思ってな」

「強いはずのサラゴサが2部落ち寸前の位置にいるのは事件ではあるな」

「そこでこの試合なわけやな」

「まあよかろう」

「まずは先発やな」



「デポルは、左がラフィタでなくリキなだけで、まったく普段の布陣やな」

「バルサ戦のように、左を抜いてトップ下に置くような変更はないな」

「いうなればマドリー戦(別ページ)と同じタイプのシステムになる」

「その時の攻め筋は下のようだった」



「上の図にヴィルヘレムションが中に入ること、コロチーニが上がってパスを出すことを加えると、この試合における特徴的な選手とボールの動きは下のようになる」



「ふむ」

「一方で、デポルのディフェンスには、マドリー戦でも穴があった」

「下の形やな」



「オレンジの点線で囲まれたゾーンが弱い」

「要するに、左サイドやろ」

「上の図をこの試合に合わせて天地を逆にすると次のようになる」



「これに対して、サラゴサは攻撃において下のような特徴を持っていた」



「とにかくみんな前へ前へというか」

「中盤から前なんか、攻撃が得意な選手だけで固められている」

「右サイドバックもサパテールで、もともとはボランチの選手やな」

「彼もどんどん上がる」

「それに比べると左のパレーデスは少し控えめだった」

「あまり深入りせず、早めにクロスを上げて戻ってくる感じやな」

「前線+サイドバックをマトゥザレムとセラデスがパスで動かすという形になっている」

「前に入る選手ではセルヒオ・ガルシアがことに目立っていた」

「右でクロスを上げたかと思えば、中に入ってミドル。サイドからドリブルで一気にペナルティーエリアまで切れ込んだかと思えば、フィリペをマークしてサイドバックの横まで戻る」

「攻撃に守備に八面六臂の活躍だった」

「そんなサラゴサの攻撃を、デポルの守備と重ねると次のようになる」



「デポルの守備が弱いサイドに線が集まっていていい感じであるな」

「そこをどう使うかというと下のようになる」



「セラデスからの展開、左から中に切れ込んだアイマールからのサイドチェンジ、中に切れ込んだセルヒオ・ガルシアからのパス、上がったサパテールからフィリペとコロチーニの間を通すパス、などなどやな」

「特に、フィリペとコロチーニの間、3バックのアゴと呼ばれる部分を上手く攻めていた」

「3バック系システム攻略の定石でもある」

「それもあり、試合は開始から一方的にサラゴサペースだった」

「怒涛の攻めやったな」

「ところが点が入らない」

「ゴールに嫌われたというか、選手に降格からのがれたい焦りがあったというか」

「とにかく入らない」

「スコアレスの状態が続き、65分の時点で次のようになる」



「デポルは、トップと左の中盤が代わっている」

「これは普通の交代やな」

「システム的に、トップと左右の中盤は走る距離が長いしな」

「そうやな」

「サラゴサの方はというと」

「アイマールを下げてオスカル」

「アイマールは、今シーズンずっと6割以上の状態になったことがない」

「交代もやむなし、というところやな」

「そして88分にこうなる」



「デポルはやっぱりサイドを代えて、サラゴサはディエゴ・ミリートとセラデスが下がる」

「ミリートと代わったファンフランが左に入り、オスカルが中へ。リュクサンがセラデスの位置に入る」

「ミリートは怪我やな」

「実はこれが決定的な意味を持っていた」

「試合終了寸前の92分」

「中央に場所を移していたオスカルがドリブル突破を試みる」

「これをデ・グスマンが倒す」

「フリーキックの位置は、ゴールまで37m、中心線よりやや左」

「これをマトゥザレムがファーポストの外側深くに送り込む」

「キーパーが飛び出しクリアを試みるも空振り」

「抜けたボールをセルヒオ・ガルシアが折り返し」

「アジャラがゴール前1.5mで押し込む」

「これで1-0」

「そのままタイムアップ」

「得点を決めたアジャラの目には涙が光っていた」

「鬼の目にも涙とはこのことであるな」

「ここで負けたら、本当に降格が現実味をおびてくるだけに、ものすごいプレッシャーがかかってたんやろな」

「後は、試合展開が苦しかったのもあるやろな」

「基本的にずっと有利やったけどな」

「有利で点が入らへんというのはあせるもんやしな」

「サラゴサペースだったのは下の図でもわかる」



ASの図やな」

「これは、下から、相手のエリアへのクロス、枠外シュート、枠内シュート、ポストに当ったシュート、PK、得点をあらわしている」

「つまり、線が上にいけば行くほど得点チャンスだったことを示しているわけやな」

「黒がサラゴサ、オリーブ色がデポルになる」

「明らかにサラゴサが上に来ている時間が長い」

「一試合を通じて優勢だったことを示唆しているわけやな」

「そうやな」

「ところが、試合を詳しく見ると、優勢の中でも種類があることがわかる」

「種類とはなんや」

「下の感じや」



「ほほう」

「前半からサラゴサ優勢。ただ、デポルも苦しいながらも守備の組織は保っていた」

「それでも、完璧なチャンスを2回ほど作られたけどな」

「それはサラゴサがそれだけ良かったということで、デポルは押されながらもカウンターからチャンスを作ろうとしていた」

「まあそうやな」

「これが後半に入ると、窒息寸前に苦しくなる」

「70分手前までは、押し込まれ過ぎて、カウンターも出せない状況だった」

「これは重いものを持っていると、時間がたつほど支えられなくなるのと同じ理屈やな」

「ただ、攻めている側に、息切れとあせりが加わり、70分過ぎから雲行きが怪しくなる」

「サラゴサにも非常に惜しいチャンスがあったが、デポルが徐々に相手エリアに侵入し始めるて、どっちつかずの不安定な状態になってきた」

「そして、80分を過ぎるとデポルの反撃が厳しくなる」

「87分のフィリペのシュートなんかは終わったと思ったしな」

「デポルの方から見れば望ましい展開であり、サラゴサとしては非常に焦りをさそう展開だった」

「”これだけ攻めて負けるのか?”とか、”負けると本当に二部に落ちるんじゃないか?”とか、いやな疑念が頭をよぎる流れではある」

「そんな中で、本当に終了間際のゴール」

「アジャラだけでなく、選手の大半が泣いていたのもうなずけるという話やな」

「喜びを通り越して泣いてしまうというのはすごいことだと思う」

「選手の能力的に勝つ、戦術的に勝つ、ということと、実際に勝つということのギャップの厳しさを見せつけられた」

「そういえばだな」

「なんだ」

「戦術で言えば、確かにサラゴサが優位に立っていた」

「相手の弱い部分を強く攻める、という原則が守られて、非常にうまくいっていた」

「そこで、こういうもので問題集を作れないかと思ったわけだ」

「問題集か?」

「そうや」

「これまたえらい唐突やな」

「例えば、この試合で言えば、”デポルティーボの守備にはこのような特徴があります。あなたはサラゴサの監督として次のような選手を持っています。どのような先発を用いて、どのように攻めますか?”というような感じやな」

「その問題だと、選手の組み合わせが膨大すぎて話が発散してしまうのではないかね」

「だから、これは例で、もっと限定された状況を選べば答えのわりとハッキリした問題ができるのではないかと思うわけや」

「どうなんやろな」

「ビジャレアル対ヘタッフェ戦が、その意味で非常にいい題材だったので実際に作ってみたんやけどな」

「やりよるな」

「みなさまに解いていただいて、わかりやすいかわかりにくいか、解答についての疑問などをお教えいただきたいと思う次第なんやけどな」

「なるほど」

「どうかよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「戦術問題集ということで、算数の問題風に書かれていますが、その辺りの感想も含めてぜひ」

こちらからご覧いただきたいというところで」

「では、また次回」

「ごきげんよう」


戦術問題集(ゲームメーカーへの対策)
「いわゆるバルセロナダービーだったわけだが」

「バルサは今節も勝てなかった」

「先発はこうやな」



「バルサはイニエスタやメシを温存か」

「水曜日にマンチェスター・ユナイテッド戦があるからな」

「おまけに、前回に見たトゥレを前に上げるバリエーションはまたもおあずけやな」

「残念ながらそうやな」

「もしかしたらマンチェスター戦に温存しているのかもわからんぞ」

「それやったら嬉しいけどな」

「エスパニョールは、リエーラが出ていない」

「ベンチスタートで後半には出てきた」

「スペイン代表に選ばれた頃の彼は実に自信に満ち溢れていて、一つ一つのプレーが確信に満ちていた」

「最近は、今ひとつ攻めていけないというか、無難なプレーに流れがちやな」

「何があったんやろな」

「タムードも怪我以降いまひとつで、3人の内2人が思わしくない」

「監督も頭の痛いところや」

「それはさて置き、この試合では一つ面白いプレーがあった」

「なんや」

「下のプレーやねんけどな」



「絵が小さいな」

「見にくい場合は、写真を押すと拡大されます」

「イニエスタが、ディフェンスに向かってドリブルをして、中央を押しこんだ場面やな」

「その通り」

「これがどうした」

「この、相手に向かってドリブルをする、という行動は、上手い選手と下手な選手の分かれ目であるわけや」

前にもそんな話があったな」

「相手に向かう効能というのは、進行方向の両脇にスペースを残すことで、このスペースを自分の都合のいい場所に作れば、次のプレーが楽になる」

「それが上の最後の写真やな」

「実際のプレーは、次の写真の一番上のように進む」



「中にはたいてワンツーか」

「これは良くある形なわけや」

「この場合の常道と言ってもいいくらいやな」

「ところが、実は、2番目の写真のパターンも非常に有効なんやな」

「スルーパスか」

「このプレーを行うには、パスを受ける選手の動きが重要で、写真のように最初から浮いておくよりも、わざとディフェンスにマークをされやすい位置から少し下がる振りをして、縦に抜けた方がいい」

「要するに、下がることでマークを釣り出し、その裏を取るわけやな」

「模式的に書くと、下の形やな」



「ふむ」

「実は、相手がゾーンディフェンスの場合、このような形で、中盤の守備者を中央に向かって押し込んでいくと、縦にスルーパスが出る状況になりやすい」

「この手のスルーパスは、ジダンやデ・ラ・ペーニャの得意技やな」

「それが次の図やな」



「ジダンか」

「ジダンで、試合は、チャンピオンズリーグに勝った年のホームでのバイエルン戦や」

「ちょっと古いな」

「まず、一番上の写真ではサイドラインに近い位置でボールをもらう」

「次に中央を向いて、一番近いディフェンダーに向かってドリブルを開始するわけやな」

「これは、実はあまり普通の行動ではない」

「周囲に十分スペースがあるのに、わざわざ相手との距離を縮める必要はないな」

「実は、その狙いというのは、次の図でわかる」



「デフェンスの間を通すパス狙いか」

「この場合、一番上に示された3つの間を一発のパスで通すことを狙っている」

「いわゆる門狙いというやつやな」

「これが、”中盤の守備者を中央に向かって押し込んでいくと、縦にスルーパスが出る状況になりやすい”という文章の具体例なわけや」

「最初からゾーンの間を狙わず、そこを狭める選手に向かってドリブルすることで動けないようにして、おもむろに間を通すわけやな」

「おまけに、後ろの選手はカバーリングのために中央に動くから、縦にパスが通りやすい状況が生まれる」

「パスを出す方はそれでいいとして、受ける方もその意図をわかっていないとあかんな」

「それが2枚目の写真で、一度戻る動きをしたフォワードが、縦に出ることでこれを受けようとしている」



「ラウールやな」

「この場合、ラウールは、ジダンが中央へドリブルをした時点で、このパスを予想していたと思っていい」

「ほんまかいな」

「そうじゃないと、こうもいい場所に、こうもいい動きで入り込むのは難しいで」

「以心伝心か」

「出すも出したり、受けるも受けたり。両者ともに、匠の技というわけやな」

「でも、これは手筋として使えるな」

「ボールを持った選手が、中央の守備者に向かってドリブルをして、中へのパスフェイクから縦にスルーパス。この時、フォワードは一度下がってから縦に抜ける」

「これさえ知っておけば、タイミングを合わせるのはわりと簡単やな」

「皆様も一度試してみられてはいかがかと」

「ただし、最初の部分、つまり、相手に向かってドリブルを仕掛ける、ということができないと絵に描いた餅になるで」

「そこは、普段のミニゲームやらなにやらで、ボールを持ったら必ず一番近いディフェンダーに体を向けて相手を止める。といった行動を繰り返して度胸と技術を身につけて行くしかない」

「その辺りも試していただければというところで」

「また次回」

「ごきげんよう」
「バルセロナは、レクレと引き分けた」

「絶望的やな」

「何が」

「マドリーにまた2ポイント差をつけられて、残り6試合で9ポイント差。ほぼ絶望的な数字になっている」

「そっちか」

「他に何がある」

「プレー内容のことかと思ったんやけどな」

「内容的には、今後に向けて転換点になりそうな試合やったから、絶望的ではないと思うで」

「さよか」

「まずは先発やな」



「この図から、バルセロナだけを抜き出して上下を逆にすると、次のようになる」



「まあいつものバルサというかなんというか」

「メシ、アンリ、イニエスタがいない時の形やな」

「その代わりに、ジオバンニ、エスケーロ、グジョンセンが入っている」

「ところが、65分に交代が行われて、下の形になる」



「ほう」

「これはこれは」

「ついにトゥレが前に出たのか」

「これは、バルサのバランスを回復させるのはこれしかないから、4ヶ月前から見てみたいと思っていた布陣なわけや」

「まあ、トゥレは技術的にも性格的にも前の方が向いてるしな」

「その結果は上々だった」

「上々だったといっても、この交代の後に同点に追いつかれたわけだが」

「あれはハイボールに対する目測を誤ったバルデスの個人的なミスで、中盤のバランスとしては明らかに良くなっていた」

「そうかね」

「トゥレがこのポジションに入ると、特に攻めた後の守備が格段に安定する」

「まあ、ボールに体を寄せていけるからカウンターの出所を潰す能力は高いな」

「おまけにハイボールに対しても抜群に強いから、これまでバルサが苦手としていたロングボールによる飛ばし攻めにも強くなる」

「グジョンセンやイニエスタ、シャビよりも強いのは間違いないわな」

「この形からアンリが帰ってきたとなると、次のようになる可能性が高い」



「順当な配置やな」

「ところが、このままでは、下の場所に問題が出る」



「守備か攻撃かで言えば、攻撃に問題が出るな」

「いわゆる組み立てに難がある」

「その辺を思い切れば次の形がええかね」



「これはまた思いっきりやな」

「とにかくボールをさばけたらええという配置や」

「他のバランスは考えへんのかいな」

「3トップ系のシステムというのは、両ウィングにいい形でボールを渡さないと意味がないから、その意味ではこれが最高やな」

「矛盾はないといえばないけどな」

「もう一つの形としては、下の図も考えられる」



「イニエスタを左、トゥレを右に置くのか」

「この時の攻め筋は、次のようになる」



「左からか」

「左のアンリを引き金にする場合、マルケス、エジミウソンでそこにボールを送り、ドリブルを開始、エリアの角辺りで仕掛けて、縦に出た場合はエトー、メシ、トゥレがつめる。中に切り返したら、シュートもしくはイニエスタに渡して斜め奥にパス」

「パターンやな」

「いいパターンをいかに多く出すかというのは大切やからな」

「右から行くとしたら下の感じか」



「ガビ・ミリートとマルケスがメシに送って、中へドリブル。スルーパスにエトー、逆サイドへのパスをアンリ、後ろに戻してトゥレやな」

「それにワンツーを加えたり色々やな」

「これはこれでメシを十分に活用できる」

「この試合では、その点がいまいちやったしな」

「トゥレがエトーの後ろに入ってたな」



「普通のチームなら、サイドに開いて空いた中央に後ろから入るというのは非常にいいプレーなのだが、バルサの場合は違う」

「それをやってしまうと、メシがドリブルで入るスペースを味方が潰してしまうんやな」

「彼の一番得意なプレーを自分たちで消してしまってはつまらない」

「守備では下の形がええな」



「メシはなるべく下げずに、左サイドを下げた方がいい」

「メシは前に残ってこそ価値がある」

「ただ、それをやるとアンリの体力が持たないことは証明されている」

3節がそうやな」

「そうなると、エトーに頼るしかない」



「左サイドを交代しつつ試合を進めるわけやな」

「これは、ロナウジーニョが左にいた時代も良く行っていた」

「負けたくない試合では、先発からこうなることも多かった」

「ただ、ここで問題になるのは、左サイドを下げて守るなら、下の形の方が良さそうなことやな」



「シャビを右にして、トゥレをマルケスの左に引くのか」

「この方が明らかに中央が固い」

「となると、この形か」



「中盤をシャビ+トゥレで組むか、トゥレ+イニエスタで組んだ方がいいかは実際にやってみないとわからない」

「理屈はあくまでも理屈やからな」

「ただ、理屈は大切で、これまでのバルサは理屈的にもダメで、やっぱりダメだった」

「マドリーもそうやな」

「なんにしても、チャンピオンズリーグの4強に残ったことが奇跡というか、驚愕すべき事実に近いバルセロナにとって、これから先に進むには、トゥレを上げるしかないやろな」



「今までの方法では、いつまでたっても前後がバラバラやしな」

「上の形をベースにして調整していくしかないと思うんやけどな」

「はたして、今後どうなっていくのか」

「注目というところで」

「また次回」

「ご機嫌よう」

注:図中のD.ミリートはG.ミリートの誤りです。
お詫びして訂正いたします。
「首位のレアル・マドリーは、マジョルカと引き分けた」

「1-1やったな」

「2位のビジャレアル、3位のバルセロナは差を詰めるチャンスだったわけだが」

「両チームともこけて、7ポイント差は変わらず」

「なかなか縮まらないもんやな」

「マドリーこけたらみなこけるというのが流行やしな」

「けったいな流行やな」

「とりあえず、先発はこうやな」



「両チーム普通といえば普通かね」

「マジョルカはイバガサを中央に置いて、そこからの組み立てを重視したタイプやな」

「イバガサは、トップ下や左で使われることもある」

「マドリーはディアラとバチスタを外して、中盤から前に上手い選手をそろえたタイプの布陣を採用している」

「まあそうやな」

「そんでや」

「なんや」

「一口に上手いと言っても、色々と種類がある」

「まあそうやな」

「この試合では、マドリーのゴールシーンで、一つ典型的な上手さをあらわすシーンがあったので、それを見てみようと思う」

「ええで」

「まず、一つ目は下の写真や」

「中盤でガゴがボールを受けた場面か」



「一番上の写真で、ガゴがボールを受けて、サイドに一人選手が余っている」

「ロッベンやな」

「そこを有効に使おうと思えば、赤い円で囲まれたディフェンスを消してしまえばいい」

「その選手が一番サイドに近いからな」

「それをどうやって達成するかといえば、2番目の写真のように、ボールを持った選手が真っ直ぐそのディフェンスに向かっていけばいい」

「いわゆるピンという奴やな」

「ディフェンスというのは、向かってこられると進路を空けるわけにはいかないから、その方向にピン止めされた状態になる」

「それによって、点線のゾーンが空くわけやな」

「そして、十分に敵を引き付けてからボールを離せば、めでたくサイドにフリーの選手ができる」

「定石といえば定石やな」

「まったく同じ状況が下でも見られる」

「これは、上でサイドに出たパスを、前に出たロッベンが受けた場面やな」



「サイドでボールを止めたロッベンは、中央を向くと、最も近いディフェンダーに向かってドリブルをはじめる」

「その狙いは、要するに、2枚目の写真にあるゾーンを空けることやな」

「さっきと一緒で、進行方向に敵をピン止めして、その横にスペースを残す」

「そこから一気にドリブルで縦に抜けるわけやな」

「最後のプレーがパスかドリブルかの違いこそあれ、使われている手筋はまったく同じなわけや」

「そうやな」

「以上のプレーは当たり前といえば当たり前なわけだが、下手な選手がやれば下のようになる」



「ふむ」

「要するに、敵に向かわずに最初からスペースに向かい、結局ディフェンスをそちらに寄せてしまって、肝心な場所を埋めてしまう」

「下手というか、何も考えずにプレーすると、選手は大体赤い矢印のように動くな」

「それは結局、下手ということなんや」

「そうなんかね」

「サッカーにおける上手、下手の最初の分かれ目は、ボールを持った後、どれだけ目の前の敵に正対できるかで、それができない選手はいつまでたっても二流なんや」

「ほほう」

「それで、ドイツワールドカップの日本代表で、最もできなかった部分がそこなんやな」

「まあ、あれはチームが上手くいってなかったしな」

「チーム云々の前に、あれだけ相手に向かうことができないのは個人としての能力の問題やで」

「しかし、なんで今さらそんなことを持ち出すんや」

「この前、フェネルバッチェとチェルシーが試合をしたやろ」

「したな」

「フェネルバッチェの監督はジーコやろ」

「ジーコやな」

「今のジーコのサッカーには、日本代表監督をしたことで学んだことがいかされていると思うんや」

「それはそうやろな」

「その一方で、日本はジーコから学んだことをどのくらいいかしているのだろう、と考えると、どうにも心もとない」

「まあ、失われた四年らしいからな」

「失われたと断言する以上、そこから得たものがないというこやろ」

「そうなんかね」

「ジーコが学んだことをいかして、日本がジーコと過ごした時からなにも学ばず、学ぼうとする意思も薄弱であるとしたら、それはどういうことなんだろうかと思ったわけや」

「ジーコは自分が失敗したから、そこから学んで当然で、その失敗の犠牲者である側は学ぶことなどない、ということちゃうかね」

「はたして、それで正しいんやろか、そんなことでは本当に失われた四年になりはせんのだろうか、などということを、つらつらと考える今日この頃であるわけや」

「さよか」

「チェルシー対フェネルバッチェ戦では、そのようなことを頭の片隅に置いて見られるのもいいのではないかというところで」

「また次回」

「ごきげんよう」


おまけ:マジョルカのラインコントロール

「さて」

「バジャドリーは負けてしまった」

「大敗といえば大敗やな」

「スコアだけ見れば、強いバルセロナが弱いバジャドリーを難なく破ったように見える」

「ところがそうではない」

「というところを見ていきたいわけやな」

「よかろう」

「この試合のバジャドリーは、戦術的に特筆すべき事柄があった」

「先発は以下の通りやな」



「バルサの先発に不満があるなしは置いておいて、バジャドリーはトップ下にあたる位置に、ビバル・ドラドが来ているのが非常に意味深い」

「新聞の予想もそうやったな」

「バルセロナと対戦することを考えると、ここに彼を置くか、シシーやコネを置くかでずいぶんと話が違う」

「下の意味やな」



「最近のバルサは、ビジャレアル戦で見られるようにサイドバックをやたらと上げたがる」

「最近というか、昨シーズンからの癖が復活したというか」

「そうなると、上図の点線のゾーンがあく。押し込まれた状態からそこを突くには、トップ下にスピードに優れ突破力があり、サイドに流れて仕事のできる選手を置きたい」

「それをやるなら、右にシシー、トップ下にコメといった布陣が考えられる」

「ところが現実にはこう」



「トップ下はビバル・ドラドで、右にコメ」

「ビバル・ドラドの一番の弱点は、まったくスピードがないことなわけや」

「そうすると上の攻めは難しいな」

「まず、スペースで受けるためにトゥレを振り切る時点で難しいし、受けたとしても追いつかれて体で潰される」

「当たりにも強くないしな」

「そうなると、このように組んだバジャドリーの狙いは攻撃ではない、ということになる」

「まず守備が狙いやな」

「そりゃ攻撃じゃなきゃ守備やろ」

「攻守の切り換えが狙いかもしれんやんか」

「そんなわけあるかいな」

「ビバル・ドラドの任務は、トゥレのマークが主やな」



「バルサが組み立てている段階ではマンツー気味にトゥレをマークして、エリア近くに運ばれたら、ディエゴ・カマーチョとアルバロ・ルービオのヘルプに行くというのが任務やな」

「それにしても、見事なガード戦法ではないかね」

「いわゆる亀になるという感じやな」

「トップのジョレンテは、中央でロングボールを受ける選手で左右に流れてどうこうできるわけではないので、このような形に組むとまったく攻め手がなくなる」

「ちょっとびっくりするな」

「バジャドリーというチームは、サンチアゴ・ベルナベウでのレアル・マドリー戦で非常に勇敢に攻めて、7-0で返り討ちをくらった戦歴の持ち主やしな」

「監督のメンディリバルは、最近リーガで少なくなった攻撃精神をふんだんに持ち合わせた人やしな」

「それがこれだけ守るとは、さすがに7-0での敗戦がこたえたのかと思いきや」

「途中からえらいことになる」

「まずは、22分で、その1分前にエトーのゴールでリードを奪われる」

「そうすると、突然下の配置になる」



「コメがトップ下に来て、ビバル・ドラドは右に移る」

「これは、要するに、上で検討したバルサを攻めるための配置に近い」



「右にビバル・ドラドはどうなん、という気がせんでもないけどな」

「彼がボランチに近くなることで、左のセスマを押し上げることができるから、それはそれでええやろ」

「そうなんかね」

「コネはビバル・ドラドのようにマメにマンマークなどできないから、トゥレが空く、その代償として、スピードをいかしてスペースを縦に進むことができる」

「ガードを解いたわけやな」

「これは面白いな」

「試合の前から、リードを奪われたら配置を変えろと指示されていたわけか」

「この素早い変更はそうとしか考えられない」

「バジャドリーの変化にバルサは対応できず、押されはじめる」

「結局、テュラムがPKを取られて、前半は1-1で終わる」

「前半1-0でしのいで、後半勝負、という考えも成り立つ中、試合前から殴られたら殴り返せと指示を出していたメンディリバルはさすがの攻撃精神の持ち主やな」

「その心は、後半さらなる形で発揮される」

「46分にボージャンに決められた後やな」



「1-4-3-3に見える」

「見えるというかそのまんまやな」

「その意味は下の図で、攻めるなら攻めて下さい。そのかわり、こっちもそちらの残したスペースをいただきますよ、ということになる」



「バルサ相手にほとんどノーガード戦法か」

「普通これはできない」

「ボールを持たせたら天下一品のバルサと叩き合ったら、普通潰れるしな」

「まあ、結果的には、この後2点を追加されて、見事に潰れるんやけどな」

「得点的にはそうやけど、バルサも相当危なかったで」

「バジャドリーのシュートが2回枠を叩いたしな」

「あれはほんの少しのズレでゴールやで」

「まあな」

「それに、2点を取ったバルサばかりが攻めていたわけではない、という一つの証が下のグラフや」



「なんや、これは」

「バジャドリーが守備に徹していた開始から22分まで、ガードを解いた22分から前半終了まで、そして、後半に入ってからのシュート数を、45分に何本打ったかという形で表したものや」

「つまり、シュート数割るプレー分数かける45ということか」

「式はどうでもええねん」

「ずいぶんはっきりと出るもんやな」

「一番左の後半の部分を見ると、バルサとバジャドリーで大して差はない」

「7対6か」

「つまり、バルサを相手にガードを捨てても、十分に勝負になることを示唆しているわけや」

「バルサの側から見ると、あれだけうまい選手を集めていても、スペースを空けて攻めてくる相手を叩き伏せることができないということか」

「これは、非常に不安なデータだと思うんやな」

「というよりや」

「なんや」

「データだけでいえば、バジャドリーは22分からの布陣が一番良かったのと違うかね」

「この形のバルサが下の手に弱いのは昨シーズンで散々証明されてるしな」



「それに、前半1-1で終わった後、バルサの選手たちがテュラムのPKに関してヒステリックに抗議していたのを見ても、精神的な安定も欠けているといわざるをえない」

「別に冷静になってカウンターをかければ、バルサの戦力なら十分に勝てるのにな」

「あんなにキーキー言う必要はないと思うんやけどな」

「そういえば、もう一つ気になることがあってやな」

「何が」

「後半が始まる前、席につく前にクライフとラポルタが笑顔で談笑してた場面がニュースで流れてだな」

「それがどうした」

「話が終わってラポルタは階段を下りるために、クライフに背を向けたんや」

「ほうほう」

「その瞬間に表情が豹変して、下唇をかみしめていたんやな」

「そりゃまた面妖な」

「いったい何があったんか気になるところやな」

「普通、ある人と話した後、表情が一変するのは、相手をとんでもなく嫌いな証拠やけどな」

「非常に気になるやろ」

「そういえば昔、スチュワーデスさんで同じような場面を見たな」

「なんの話や」

「睡眠タイムの時、前の席に呼ばれたスチュワーデスの人をこっそり見てたわけや」

「気持ち悪い奴やな」

「何かを言われて、はいはいと営業スマイルで答えていたんやけど、くるりと振り返った瞬間、”けっ、やってられっかよ”という表情に変わって、またすぐ普通の表情に戻ったんやけど、あの時はゾッとしたで」

「それが今の話と何の関係があるんや」

「我慢できない人とにこやかに対応すると、その反動が別れて顔が見えなくなった直後に出るものだから、クライフとラポルタもそういうことなんではないかということやな」

「回りくどい説明やな」

「すまんこって」

「なんにしても、バルサは、戦術は当然として、心理状態や組織にも問題がありそうやな」

「おかげで、チャンピオンズリーグは一番ぐらいに楽な相手と当ったはずなのに、不安が拭えない」

「とにかく、今のバルサは左前のボージャンかアンリにいい形でボールが入れば押し込めるから、下の形でパスを出せる選手をそれぞれの場所に置くことちゃうかね」



「まずは、攻撃で相手を押し込んでから、ということか」

「3トップはもともとウィングにいいボールが入らないと負債ばかりが目立つシステムやからな」

「ついでにザンブロッタもやめた方がええな」

「左から行くんやったら右はそんなに上げる必要もないしな」

「首位に4ポイント差まで詰めたとはいえ、安定感のないバルサがどうなるか」

「今後に注目というところで」

「今回はこの辺で」

「また次回」

「ごきげんよう」


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