週休たくさんで主にスペインサッカーを分析
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スペインのサイドハーフの動きについて、以下のようなメールをいただいた。

---引用ここから---

前略

検証をお願いしたい記事があります。

http://www.bunshun.co.jp/mag/numberplus/index.htm
の「核心はサイドハーフにあり」という記事です。筆者は杉山茂樹氏ですが、恐ろしいほどの4-2-3-1信奉者で、「サイドを制するものは試合を制す」という言葉が必ずあるほどです。要点としては、今大会はどちらのサイドハーフが活躍するかが試合の趨勢を握っていた、ということのようですが、いまいち合点がいきません。相手のミスを突いたものや、カウンターで決めたものもあります。

それに、同記事では準決勝ロシア戦での交代をこう評しています。

「なにより攻撃に流動性が生まれた。攻撃の幅が保たれたことで、逆に中央にスペースができ、ロシア選手が敷く守備網も自ずと広がった。間隙を突きやすい状態になったのだ。流動的なサッカーを目指しても、幅の設定を怠ると逆に流動性は低下する。それをせずに自由に動き回れば、選手は中央に乱立しやすいのだ」

確かに、一部分当たっている面もありますが、そもそもロシア戦では最初からロシア守備陣は崩壊しており、このような説明が妥当するとは思えません、

http://news.livedoor.com/article/detail/3686054/
http://news.livedoor.com/article/detail/3680685/
http://news.livedoor.com/article/detail/3706592/
http://news.livedoor.com/article/detail/3712379/

主な記事の内容は、現地観戦記をまとめたものですから、この上に挙げた記事を抽象化したものと考えて差し支えありません。

後略

---引用ここまで---

実際の雑誌の記事を読むことはできないので、上のWEBページから、疑問にあるサイドハーフにかかわる部分を引用する。

---ロシア戦に関する文章の引用ここから---

http://news.livedoor.com/article/detail/3706592/
 それが一転したのは、前半37分。ビジャが故障で退場したことがきっかけだった。代わって投入されたのはセスク・ファブレガス。中盤が4人から5人に増え、中盤乱立の傾向に、いっそう拍車が掛かるものと思われた。

 驚いたのは、それがそうならなかったことだ。中盤はむしろワイドに広がった。

 セスク・ファブレガスが交代する相手は、これまで決まってチャビだった。4人という中盤の人数には変更がなかった。それが、ロシア戦では5人になった。両サイドハーフのイニエスタとシルバは、中盤選手が3人もいる真ん中に入っては、さすがに具合が悪いとのだろうか、それまでとは異なり、サイドのポジションを維持しようとした。サイドハーフ同士でポジションチェンジは行ったが、真ん中に入ることを避けるようになった。

 つまり、5人の中盤はピッチに綺麗に広がった。必然、幅が保てるようになったので、中にもスペースが生まれた。ロシア選手の間隙を突く流動性も生まれた。

-----ロシア戦に関する文章の引用ここまで---

これを概念図であらわすと次のようになる。
セスクの投入前は下図のようである。



これが、サイドの中盤が中央に寄った場合である。
サイドが中に入ることで、ディフェンスを中央に寄せてしまう。
その結果、中のスペースが狭くなり、パスを通す空隙もなくなり、前線が動くスペースもなくなる。
http://news.livedoor.com/article/detail/3686054/
においても、1-4-2-2-1-1という形で同様の指摘がなされている。

これに対し、セスクが入った後の概念図は、下のようになる。



図中のファブレガスは、セスクと同一人物である。
シルバ、イニエスタが両サイドに開き、守備陣がサイドに引っ張られる。
その結果として中央が空き、そこにパスが通りやすくなる。
また、それを受ける選手も動きやすくなる。

ロシア戦では、34分にビジャが負傷し、セスク・ファブレガスと代わる。
(引用文中では、37分となっているが、UEFAには34分と記されており、実際にも34分である。)

この際に、最初の図から、二番目の図にいたる変化が起き、それに伴いスペインの攻撃が上手くいくようになった、というロジックだと理解される。

次にドイツ戦に関する記事を引用する。

---ドイツ戦に関する文章引用ここから---

http://news.livedoor.com/article/detail/3712379/
 しかし、スペインに対する心配は、杞憂に終わった。4-1-「4」-1の布陣を敷くスペインは、準決勝同様、サイドハーフがキチッと幅を保つべきポジショニングに徹したのだ。だから、真ん中が空いた。逆にそこにスペースが生まれた。決勝ゴールはその産物と言える。

---ドイツ戦に関する文章引用ここまで---

これは、上で述べたセスク投入後の図にあるように、サイドの選手が横に開き、そのことが決勝点を生んだと理解される。

以上を受け、下の3点を検証する

・ロシア戦のセスク投入後、サイドハーフのイニエスタとシルバは横に開いたか
・開いたことにより中央にスペースが生まれたか
・決勝、ドイツ戦の得点は、サイドハーフが横に開いた結果か

まず、「ロシア戦のセスク投入後、サイドハーフのイニエスタとシルバは横に開いたか」とう点について検証する。

ビジャが退場し、セスクが投入されたのが34分であり、スペインの得点は50分に生まれた。
その間の16分間について、スペインがボールを保持している場合のサイドハーフの位置を確認する。
実際には、前半のロスタイム1分を含むため、17分間である。
この間に限る理由は、スペインがリードした後は、ロシアが前に出る。
このため、それ以前とは試合の様相が異なるためである。

以下の図の左上の数字は、時間を表す。
36:23は、36分23秒を意味する。
名前の長い選手は、最初の3文字で表す。イニエはイニエスタであり、カプデはカプデビラである。
スペインは、前半、左から右に攻めている。



上は、セスクが中央でボールを持っている。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。



上は、シャビが自陣でパスを出した瞬間である。
シルバはセスクと重なる位置におり、サイドに開いていない。



上は、セスクがパスを出した瞬間である。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。



上は、セナがパスを出した瞬間である。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。



上は、セスクがサイドに流れてボールを受けた状態である。
シルバは中央でイニエスタと重なっている。



上は、シャビがボールを保持している。
イニエスタは中央におり、サイドに開いていない。



上は、二つ上の図の続きである。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。



上は、シャビがボールを保持している。
イニエスタは中央におり、サイドに開いていない。



上は、二つ上の図の続きであり、シルバがボールを保持している。
シルバ、イニエスタともに中央におり、サイドに開いていない。



上は、セスクがボールを保持している。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。

次の図から後半に入る。
スペインは、右から左に攻めている。



上は、セナがボールを保持している。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。



上は、セスクがボールを保持している。
イニエスタは中央におり、サイドに開いていない。

以上のように、サイドハーフが中央に位置する状態が数多く見られる。

「ロシア戦のセスク投入後、サイドハーフのイニエスタとシルバは横に開いたか」という問に対しては、否と答えざるを得ない。

また、それは、得点シーンにもよくあらわれている。

スペインは、右から左に攻めている。



上の図で、セナからシャビにパスが出る。



上の図は、シャビがボールを受けた瞬間である。
一番外側の中盤を基準に線を引くと、下のようになる。



シルバ、イニエスタは中央に寄り、セスクも中央に寄っている。
中盤より前の6人が、中央の非常に狭いスペースに密集していることがよくわかる。

ここからイニエスタが外に開く。





この後、イニエスタが前方にドリブルし、内側への切り返しから、中央のシャビに送ってゴールが決まる。

スペースのできかたとしては、中央に選手を集める、サイドが空く、サイドにボールを送る、中央が空く、という流れになる。
これは、サイドに開く、中央が空く、中央にボールを送る、という流れとは逆である。

スペインがボールを保持しいている場合に、シルバとイニエスタがサイドに開いているシーンには下の3つがある。






(45分とあるが、実際には前半のロスタイム1分12秒。後半と混同しないため、45分と表記する。)

しかし、ここからチャンスになった事例はない。

以上のことから、ロシア戦のセスク投入後、サイドハーフのイニエスタとシルバは横に開いていなかった。むしろ、中央に寄る場面が多かったことがわかる。
「中盤はむしろワイドに広がった。」という表現は誤りである。

「開いたことにより中央にスペースが生まれたか」という問に対しても、否と答えざるを得ない。

次に、「決勝、ドイツ戦の得点は、サイドハーフが横に開いた結果か」という点について考える。

続きは、こちら
「決勝、ドイツ戦の得点は、スペインのサイドハーフが横に開いた結果か」という点について考える。

以下の図において、赤いユニフォームがスペインである。
下図において、スペインは右から左に攻めている。
ドイツのゴールは、図の左外にある。



ボールを持っているのは、カプデビラであり、セナにパスを送る。
この状態で、スペイン選手の名前を記す。



白いユニフォームはドイツであり、下に名前を記す。



ボールは、下の青い矢印の軌道を通って、カプデビラの元に来た。
バックラインでのゆっくりとしたパス回しであり、本来、守備をずらす効果は少ない。



上の図で、オレンジの丸に囲まれたフリングスは問題を抱えている。
本来、彼は、自分の前(写真の右)に位置するセナをマークしなければならない。
しかし、ここでは、シャビが背後に走り込んでおり、そこへのパスを切らなければならない。
1人で2人を見る、いわゆる過負担駒(overworked piece)になっている。
結果、下のようになる。



フリングスは、シャビへのパスコースを切ることを優先する。
これは、正しい判断であり、もし前に出て裏に走り込む選手に青い矢印のパスが通れば非常なピンチになる。
ゴールからより遠い白い矢印のパスを出させた方がよい。
それを見て、バラックが赤い矢印のように詰める。
しかし、バラックは、もともと距離があり、フリングスが前に出ると思っていたため、対応が遅れる。
その結果、セナは中央でフリーになった。

この時の、スペインのサイドハーフの位置を見る。



シルバはサイドに開いている。
イニエスタは、中央に近い。
もし、イニエスタが絵で描かれたユニフォームの位置にいるならば、サイドに開いた配置と言える。

しかし、実際のイニエスタの移動した軌跡は下のようになる。



中央から動き出している。
これは、イニエスタがサイドに開いていたことで、中央にスペースができていたとする説と矛盾する動きである。

この後の流れを、角度を変えて検証する。

今、セナがボールを持っている。



中央で完全にフリーになっている。
これは、上で述べたように、フリングスが2人を同時に見る形になり、中途半端なポジショニングを余儀なくされたためである。
その影響で、点線のように中央に大きな空隙を作った。
以下の写真では、写真上部に位置する赤い選手、シルバの動きに注目していただきたい。

シャビへのパスが空隙を通る。



シャビがボールをコントロールする。



シャビがスルーパスを送る



この時、図の上部にいたシルバは、中央に寄ってきている。

スルーパスが、トーレスに渡った状態は下のようになる。



この流れで、中央にスペースを作り出すためには、シルバは中に寄るべきではない。
それを目的とするならば、例えば、下のように動くべきである。



白い矢印のように動くのではなく、赤い矢印のようにラインの裏を突く。
シャビは、ダイレクトでパスを出せる体勢だっただけに、このような動きを見せればドイツのディフェンスラインの一番上、サイドバックのラームはシルバをマークするために黄色い矢印の方向に動かざるを得ない。
その動いたことにより、センターバックとの間が広がり、そこをスルーパスが通れば、確かにサイドハーフが開いたことで中央にスペースができ、そこからチャンスが生まれたことになる。
しかし、現実のシルバは、まったく逆の行動を取り、相手のサイドバックをトーレスに近づける働きをしている。

最初に、カプデビラがボールを持った時、イニエスタは中央にいた。
次に、シャビがボールを持った時、シルバは中央に入る動きを見せている。
これは、サイドハーフが中央に入るのを避けたとする説と矛盾する。
また、中央のシャビにパスが通ったのは、センターサークル付近でドイツが数的不利に陥ったためである。
その理由は、バラック、もしくは、クローゼのヘルプが遅れたためであり、サイドハーフの動きとの著しい関係はない。

以上のことから、「決勝、ドイツ戦の得点は、サイドハーフが横に開いた結果か」という問には、否と答えざるを得ない。

に見たロシア戦の最初のゴール、ドイツ戦での唯一のゴールは、ともに中央に人が寄ってくる状況下で決まっている。

ロシア戦においては、相手の中盤の守備の甘さも手伝って、ゴールが生まれた。
ドイツ戦においては、シルバが中央に寄ったことで狭まったラームとメッツエルダーの間を抜いたシャビの技が際立った。また、以前にあるように、一度体を入れたラームを抜き返したトーレスのスピードも見事だった。

2008ユーロにおけるスペイン代表の特徴の一つは、本来、スペースを広げなければ入らないはずの得点を、それをせずに奪ったことである。
「さて」

「いまさらながらにオランダ対ロシアについての補足的なものをお届けしようかと」

「この文章は、オランダ対ロシア戦の本稿を読まれてからの方がわかりやすいと思いますので」

「どうぞこちらから」

「読まんでもわかっとるという方は」

「どうぞ続きを」

「しかし、なにをいまさらという感じは拭えないところやな」

「それには一応理由があってだな」

「なんや」

「あの試合というのは、ロシアが左サイドをわざと空ける形で守った」

「危険の少ないオランダの右サイドにボールを持たせるためやな」

「そして、オランダが無理にそこから攻めようとした裏を取って得点を重ねた」

「オランダが、スペースを攻めようと右にファン・ペルシ、ハイティンガを入れたところにカウンターで攻めて行った」

「まさに、左のガードを下げて右のストレートを誘い、左のクロスでしとめる作戦が決まった」

「それはそれでいいのだが」

「だがなんだ」

「話が綺麗すぎる」

「ふむ」

「綺麗過ぎる話というのは嘘くさい」

「まあな」

「大体において、綺麗過ぎるというのは胡散臭い」

「世の中には綺麗過ぎる理論と結論は疑ってかかれ、ということわざがあるくらいやしな」

「多分、その信頼できなさというか、現実感の薄さというのは、時の経過と共に増して行く気がするので、それが本当にあったことを別の面からも補足しておくといいだろうと思うわけやな」

「ご苦労なことやな」

「そんな褒められても」

「褒めてないけどな」

「そうなんか」

「どうでもええから、そろそろ本題に入ろうか」

「ロシアが、左サイドを空けていた、というのが本当なら、その証拠が選手配置に残っているはずである」

「そこで、まいどお馴染みUEFAのサイトから、選手のいた場所のデータを引っ張ってくる」

「こんな情報を提供してくれるUEFAには感謝しきりやな」

「どうせなら生データと時間別データも流してくれたら嬉しいけどな」

「ロシアで、通常、中盤の前側にいたのは、右から、サエンコ、セムショフ、ズリアノフ」

「前後の位置に結構ずれがあるけどな」

「まず、9番、サエンコのデータはこう」



「ロシアは右から左に攻めているから、右サイドに多くいたことがわかる」

「芝がはげた感じの茶色が濃い場所にその選手がよくいたことを示しているわけやな」

「右サイドライン側に餃子のようなあとが見える」

「せめてバナナといわんかね」

「次に20番のセムショフ」



「中央よりやや上、つまり、右サイドに多くいたことがわかる」

「次に、17番のズリヤノフ」



「中央より下、左サイドにいる」

「セムショフとズリヤノフがちょうど中央の右と左をカバーしている感じやな」

「そして、ズリヤノフの外側、つまり、図の下側に選手はいない」

「つまり、中盤で言えば、ズリヤノフが左の端で、サエンコが右の端なわけやな」

「それなのに、ズリアノフとサエンコの位置を比べるとまるで違う」

「まず、ズリアノフの図に下のような赤い線を引く」



「ペナルティーエリアの端と端を結ぶ線やな」

「ズリアノフの場合、赤線の下側、つまり、ペナルティーエリアと左サイドラインの間の滞在が少ないことがわかる」

「これを、逆サイドのサエンコと比べる」



「右にいるサエンコを無理やり反転させて、左サイドにいるような形にしている」

「明らかに、ズリアノフと比べて、赤線より下側、サイドラインに近いゾーンでの滞在が多い」

「つまり、中盤右側にいたサエンコの方が、サイドラインに近い場所でプレーし、左側のズリアノフがより中央に近い位置でプレーしていたことを示している」

「つまり、ロシアの守備が右側に片寄っていたことを物語っている」

「その点については、他の選手を見てもそうなっている」

「まずは、11番のセマク」



「この選手は、ディフェンスラインの前をカバーする役割をおっていた」

「中央より上、ロシアの右サイドに片寄った分布になっている」

「19番のパブリュチェンコ」



「ワントップのフォワード」

「やはり、中央より右に寄っている」

「最後にアルシャビン」



「中盤を助けながら、トップ下のような仕事をする」

「中央より左にいるが、サイドライン際の滞在は少ない」

「中盤より前の選手は以上」

「オランダ戦において、ロシアの左サイドライン際、つまり、図の赤線より下側に、ロシアの選手があまりいなかったことがわかる」



「これは、ロシアが、左を意図的に空けていた一つの証拠になる」

「とまあ、そういうわけだが」

「どういうわけだ」

「ここで一つ気になることがある」

「なんや」

「上のような図が、ロシアが意図的に左サイドを空けていた証拠だというのなら、意図的に空けない時の分布がどうなるのか、気にかかる」

「まっとうな疑問やな」

「そこで、ロシアの緒戦、スペイン戦での両サイドの位置を見てみる」

「右のシチョフ」



「左のビリアトレジノフ」



「きちんとサイドまでカバーしていることがわかる」

「おまけに、フォワードのパブリュチェンコ」



「ほぼ真ん中やな」

「下のオランダ戦のように、右にずれてはいない」



「つまり、最初のスペイン戦において、ロシアは右も左もサイドをきちんとカバーしていたし、前線を片寄った配置にしていたわけでもない」

「以上のことからも、オランダ戦のロシアの配置が普通ではない。つまり、左サイドを意図的に空けていたことがわかる」

「なんとも綺麗な結果やな」

「実に素晴らしい」

「めでたしめでたし」

「と言いたいところではあるが」

「スウェーデン戦を見るとそうもいかない」

「うむ」

「左はビリアトレジノフ」



「ちゃんとサイドまでカバーしている」

「右のズリアノフ」



「内寄りやな」

「サエンコが入った後、中央に位置を移したという事情はある」

「それにしても、下の最初の図を左サイドを空けた証拠だというなら、下の二番目の図は右サイドを空けた証拠であるといえる気がする」





「そんな気がするな」

「この辺が、データだけから判断する限界かね」

「例えば、右サイドの中盤は、相手のサイドバックが内に入る癖があれば内に寄るし、敵が左サイドから主に攻めてくれば中央に入る」

「ディフェンスでサイドをわざと空ける以外にも、生息場所が中央よりになる理由はいくつか考えられるから、試合内容とデータを合わせてみないと、データだけからはなかなか正しい試合情報は得られない」

「試合を見て、自分が判断したことと一致するデータが残っていれば、その信憑性が増す、ということやな」

「オランダ戦でのロシアは、配置を片寄らせていた」

「それは、データからも垣間見られる」

「そして、そこから繰り出される作戦が綺麗に決まった」

「どうしたらよかったんやろな」

「なにが」

「決められたオランダの方は、どうすればよかったのかと思ってな」

「ファン・バステンの方か」

「ファン・ペルシ、ハイティンガを入れて、綺麗に逆を取られたやろ」

「あれを防ごうと思ったら、交代を我慢するしかないやろ」

「無理に崩しにいかずに忍耐の人か」

「誘いにのらずにじっとしてたら、選手の質、特にセットプレーでのキッカーの差が徐々に効いてオランダの不利な展開にはならんやろ」

「もしそうなったら、ロシアはどうしたんやろな」

「どこかで勝負をかけるんやろうけど、それはどこやったんやろな」

「オランダが誘いに乗らなかった場合に対して、ヒディングからどんな指示が出ていたのか、非常に気になる」

「相手の出方を完全に予想して立てた戦術というのは、外れた時が怖いし、その対応が難しいでな」

「ミーティングで、散々相手はこうくる、こうくると言っておいてそれが外れると士気にもかかわる」

「そう考えると、むしろ監督としてどう対応したのかを見るために、オランダがロシアの狙いを外した姿を見たかったような気もしてくる」

「かなわぬ夢やけどな」

「まったく同じ条件から後半を始めて、途中だけ変えられたら面白いのにな」

「そんなこんなの妄想をしつつ」

「今回はこの辺で」

「ごきげんよう」


参考文献:
眞鍋カヲリを夢見て 戦術の教科書
ユーロ2008オランダ対ロシア戦のディーテルに関する優れた分析があります。
データはすべて、UEFAによる。

パス本数と成功率



全体、ショート、ロングのパス成功率においてマルチェナが優る。
ミドルパスの成功率においてプジョルが優る。
90分あたりのパス本数は、マルチェナが優る。


パスの内訳
*データ内容については、脚注参照



グラフ中のプジョールは、文中のプジョルである。
プジョルとマルチェナが、デイフェンダーとゴールキーパー、ミッドフィールダー、フォワードに出したパスの比率を示している。
プジョルは、ディフェンス、ゴールキーパーへのパスの比率が高い。
マルチェナは、ミッドフィールーダー、フォワードへのパスの比率が高い。



プジョルは、セナ、シャビへの比率が高い。
マルチェナは、相対的に、シルバ、イニエスタへのパスが多い。
セナ、シャビは、いわゆるボランチでありディフェンスに近い、シルバ、イニエスタはサイドに位置するためより距離がある。
より遠い選手へのパスの比率が高いのはマルチェナである。



中盤へのパス本数は、すべてにおいてマルチェナが優る。



トーレスへのパスは、プジョルがやや優る。
ビジャへのパスは、マルチェナが優る。

以上のデータは、マルチェナの方が前に送るパスが多く、全体としてのパス成功率も高いことを示している。
データから予測されるように、実際の試合でも、マルチェナが後方からの配球を担当した。

プジョルは、ロングパスの精度の低さや、前に送るパスの少なさから、その存在意義が疑われる場合がある。

次に、プジョルのディフェンス本来の働き、つまり、相手がボールを持ている場合のプレーを検証する。


ファール数



90分あたりのファール数において、プジョルは、マルチェナの約6割である。


プジョルのプレー内容

この大会において、プジョルは裏を取られないことに注意を払っていた。
クロスやミドルシュートに対して、非常に素早く反応し位置を下げた。
具体例は、ロシアとの緒戦、24分52秒、34分52秒、89分57秒に見られる。

また、こぼれ球や相手のミスに対しても非常によい反応を示した。

これに加えて、味方のミスにも、早い反応を見せた。
準決勝ロシア戦の76分48秒がその例である。
具体的には、下の写真のようになる。

セナのパスがカットされ、相手フォワードに直接渡った。







このピンチにプジョルは素早く反応し、相手の前に体を入れた。

このようなプレーは、一試合に一度起きるか起きないかである。
それに対する行動が早いということは、常に守備に入る準備ができていることを示している。
相手のミスや、こぼれ球に対するだけでなく、味方のミス対する守備も早い。
プジョルは、一般にいわれる、”攻めている時にも守備への集中を切らない”という点で優れたプレーを見せた。
最初のロシア戦の88分19秒にもそのようなプレーがある。


プジョルの特徴

攻撃面
・パス精度は、ショート、ロングにおいて不足している
・ミドルパスにおいて高い成功率を残した
・横パス、バックパスの比率が高い
・ボランチにボールをあずけることが多い

ボールを持ったプレーについては、以上のことがいえる。
後方から組み立てを担当する選手ではない。
パスで致命的なミスをしないようにプレーする選手である。

守備面
・少ないファール
・裏を取られないポジショニングと動き
・相手のミスへの反応の早さ
・こぼれ球への反応の早さ
・味方のミスへの反応の早さ

相手がボールを持っている時、以上のような特徴が見られた。
守備への集中という点で際立っていた。


ユーロでの評価

プジョルがベストイレブンに相応しいか、という問を考える。
チームを支え続けたという意味では相応しい。
しかし、単体での能力をペペのような選手と比べると相応しくないであろう。
隣のマルチェナと比べても、パスの点で明らかに見劣りする。
どの点を評価するかによる。

マルチェナについては、相応しいといえる。
ボールをつなぐサッカーを行うためには、ディフェンスラインからのパスの正確性が非常に重要である。
その第一歩になるのがマルチェナであり、土台を支えたといえる。

*注:
最初の表は、すべてのパスに関するデータである。
グラフは、先発11人に対してのデータである。
GK:カシージャス
DF:セルヒオ・ラモス、プジョル、マルチェナ、カプデビラ
MF:シルバ、セナ、シャビ、イニエスタ
FW:トーレス、ビジャ

参考:
プジョルは、縦に入るパスにおいて、フォワードを離す場面があった。
これは、監督の指示によるものである可能性が高い。

ユーロで優勝したスペインの守備陣に疑問が投げられることは多い。
例として、
http://www.ocn.ne.jp/sports/soccer/magazine/0648.html
があげられる。
この点について検討したい。
データはすべてUEFAによる。

まず、スペインの4バックのフィードの正確性について及第点とは言い難い、という主張について検討する。

フィードとは、一般的に、ディフェンスラインなどから長い距離を経て供給されるパスをさす。
UEFAのデータベースには、フィードという項目はない。
よって、ここではロングパスの精度について調べることで代用する。
フィードの精度とロングパスの精度の間には十分な相関があると考えられる。

スペインのデータは以下のようになる。



成功率、本数ともにセルヒオ・ラモスがトップである。
以下、マルチェナ、カプデビラ、プジョルと続く。
表中のプジョールは、文中のプジョルにあたる。
トップのセルヒオ・ラモスと最下位のプジョルの間には、
成功率で14%、90分あたりの本数で5本以上の開きがある。
このデータからは、4人をひとくくりにして、”スペインの4バックはフィードの正確性について及第点とは言い難い”との主張するのは無理であることがわかる。

このデータを、他の国と比較する。
ベスト4、すなわち、準決勝に残った国と比較する。



平均成功率は、58%、90分あたりの平均本数は7.39本である。
プジョルを除く、セルヒオ・ラモス、マルチェナ、カプデビラの3名は、平均以上の数値を残している。
ここからスペインの4バックのフィードが及第点以下であることを読み取ることはできない。
特に、セルヒオ・ラモスは成功率において、2位の成績を残している。
及第点以上だといえる。

上の表を、90分あたりのロングパス数で並べかえる。



セルヒオ・ラモスは再び2位である。
成功率、本数ともに十分の成績を残している。

話をセンターバックのみに限る。



ここでも、マルチェナは平均以上であり、プジョルは平均以下である。

以上のデータからいえることは、スペインのディフェンスでロングパスについて、平均以下の数値を残した選手は、プジョルだけであるということである。

ユーロ全体でのロングパス成功率を概観するため、表2に選手を付け加える。
スペインに不利になるように、ロングパス成功率を向上させるであろう国を選ぶ。
イタリア、ルーマニア、ポルトガル、フランス、オランダである。

イタリアは、プレースタイル的にフィードを得意とする選手が多い。
ルーマニアは、歴史的にテクニカルなディフェンスを輩出している。
ポルトガルには、ペペ、カルバーリョという世界を代表する選手がいる。
フランスは、近年質の高いディフェンダーを輩出している。
オランダは、ポゼッションサッカーを指向する国だけに、一般的にディフェンスのパス能力が高い。
以上のような理由から、パス成功率が向上すると期待される。
結果は、文末の表5のようになる。
平均は、成功率60%、90分あたりの本数7.91本となる。
ベスト4の平均は、成功率58%、90分あたりの本数7.39本である。
上記の国を加えたことで、成功率、本数ともに向上している。
スペイン守備陣の平均成功率は、62%、7.81本である。
成功率において、全体平均を上回り、本数において劣る。
このデータからも、”スペインの4バックはフィードにおいて及第点以下である”という結論を導くことはできない。
スペインが及第点以下なら、このユーロにおけるディフェンスのフィードが及第点以下ということになる。
そうであるならば、それを主張すべきであるし、その証拠を提示すべきである。
また、フィードとロングパスの精度に相関がないというのであれば、その理由も重要になる。
スペインの4バックのフィードが及第点以下であるという事実は、データから知ることはできない。
それにも関わらず、そのように主張するのであれば、なんらかの確固たる事実をもって証明すべきである。

引き続き、”スペインの4バックは凡庸である”という点について考察する。
まず、セルヒオ・ラモスについては、上記のロングパスの成功率、本数のデータから、その点について凡庸ではないことが示されている。
また、ルカ・トニとの競り合いに勝利している。
イタリア戦後半だけでいえば、45分25秒のプレー、81分53秒のプレーがそうである。
ルカ・トニと競り合って勝てるサイドバックがどれほどいるのであろうか。
これだけでなく、攻撃においても活躍している。
一例として、準決勝のロシア戦のパスデータはそれを裏付けている。



1対1に関して、セルヒオ・ラモスに及第点がつけられない、という点にも疑問が残る。
良くない形で抜かれたのは、緒戦のロシア戦での対ジルコフ、イタリア戦でのカッサーノの2人である。
もし、これを問題にするならば、ジルコフとカッサーノが1対1において平均的な選手であると証明した後でなければならない。

セルヒオ・ラモスを”凡庸”の一言で片付けるのは、あまりにも問題が多い。

逆サイドのカプデビラについて見た場合、これも凡庸の一言で片付けることはできない。
パスがぶれない選手であるということは、こちらで述べた。
その点について、データを詳しく見る。
以前に出した数値で、カプデビラのパスは、タッチ数が少なく、ぶれがないという特徴があった。
そのようなパスで、タイミングよく動かす場合、ショートパスが多くなる。
よって、ショートパスにおけるデータを検証する。
ベスト8、すなわち、準々決勝に残ったチームの左サイドバック8名について、そのショートパス成功率を見る。


ドイツ 16 - フィリップ ラーム
パス成功率(%) 77%
ショートパス成功率(%) 86%

スペイン 11 - ホアン カプデビラ
パス成功率(%) 80%
ショートパス成功率(%) 84%

オランダ 5 - ジョバンニ ファン・ブロンクホルスト
パス成功率(%) 76%
ショートパス成功率(%) 84%

ロシア 18 - ユーリー ジルコフ
パス成功率(%) 72%
ショートパス成功率(%) 82%

ポルトガル 2 - パウロ フェレイラ
パス成功率(%) 82%
ショートパス成功率(%) 79%

クロアチア 22 - ダニエル プラニッチ
パス成功率(%) 70%
ショートパス成功率(%) 75%

イタリア 3 - ファビオ グロッソ
パス成功率(%) 74%
ショートパス成功率(%) 75%

トルコ 3 - ハカン・バルタ
パス成功率(%) 72%
ショートパス成功率(%) 73%


一位はフィリップ・ラームであり、二位はカプデビラである。
カプデビラは、上述の中では平均以上である。

次に、ミドル、ロングを含めたパス成功率を見る。


ポルトガル 2 - パウロ フェレイラ
パス成功率(%) 82%
ショートパス成功率(%) 79%

スペイン 11 - ホアン カプデビラ
パス成功率(%) 80%
ショートパス成功率(%) 84%

ドイツ 16 - フィリップ ラーム
パス成功率(%) 77%
ショートパス成功率(%) 86%

オランダ 5 - ジョバンニ ファン・ブロンクホルスト
パス成功率(%) 76%
ショートパス成功率(%) 84%

イタリア 3 - ファビオ グロッソ
パス成功率(%) 74%
ショートパス成功率(%) 75%

トルコ 3 - ハカン・バルタ
パス成功率(%) 72%
ショートパス成功率(%) 73%

ロシア 18 - ユーリー ジルコフ
パス成功率(%) 72%
ショートパス成功率(%) 82%

クロアチア 22 - ダニエル プラニッチ
パス成功率(%) 70%
ショートパス成功率(%) 75%


一位はパウロ・フェレイラであり、二位はカプデビラである。
パスにおいて、カプデビラを凡庸な選手であるというならば、このユーロは、少なくとも準々決勝以降、左サイドバックはその点において凡庸以下の選手で構成されていたといわざるをえない。

以上のように、このユーロでは、少なくとも、スペインの両サイドバックを凡庸もしくは、平均以下とするのは、データ上無理がある。

スペインのセンターバック論については、別の機会に譲りたい。

この文章の生データは、こちらを参照されたい。


(クリックで拡大)

*注
”また、カプデビラは、一般的に攻撃面よりも守備面を評価されている選手であることを思いおこされたい。”
という文は一般論の援用にあたるため削除しました。


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