週休たくさんで主にスペインサッカーを分析
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マドリード人の代表応援法 (2004.06.09)

マドリードに住む人間の代表に対する姿勢は極めて及び腰である。

その代表的なスタンスといえば、勝ったならば一緒に喜ぶが、負けても被害を受けない距離に身を置いてセレクシオン・エスパニョーラ(スイペン代表)を応援する、というものである。

以前、ユーロ2004を前にして、調子を落としているイケル・カシージャスの先発の座を心配する人から、「スペイン国内ではサモーラ(最小失点キーパー)であるバレンシアのカニサレスと失点の多いイケル・カシージャス、どちらが代表のキーパーに相応しいか、議論があるのではありませんか。」と聞かれたのだが、ふと考え込んでしまった。新聞にしろバル(飲み屋)のおっちゃんらにしろ、カニサレスかカシージャスかで喧喧諤諤の議論をしている場面を見たことがなかったからである。確かに新聞で取り上げられはするが、それはネタ探しの意味合いが強く、「議論」のように強い論調のものではない。

この国では、そもそも、不首尾に終わったヨーロッパ選手権予選の後、いつの時点で代表監督イニャキ・サエスの続投が決まったのか、定かではなかった。
スペインはギリシャ、ウクライナ、アルメニア、北アイルランドと対戦する「簡単な」グループに入りながら、ホームでのギリシャ戦を落とし二位に甘んじた。
この恥と言える成績ですら、監督に対する大いなる糾弾の声を引き起こすには足りなかった。イタリアではトラパットーニの首を求める声が国中で沸き起こっていたようであるが、この地でそのような沸騰を経験することはなかった。
ノルウェーとのレペスカ(プレーオフ)の後、スペインサッカー協会はサエスに続投を求め、彼は「時間を取って考えたい」と答えた。その後ほとんど人々の話題に上らぬまま、その契約は更新された。
さらに言うならば、協会はユーロ「直前」にサエスのドイツワールドカップまでの続投を決め、一般人はその不可解な人事に全く頓着していない。

スペイン人の代表に対する関心の薄さ、ことに、地域間の強烈な競争心に源をなす関心の薄さは有名である。

個人的な思い出であるが、私にとって最初のスペイン語の先生となったアランチャは正にその典型だった。彼女は生っ粋のマドリディスタであり、昔はシウダー・デポルティーバに足を運び、練習を見学していたほどのサッカー好きでもある。
ある日、授業前に彼女と雑談を交わしていると、話が代表に及んだ。
そしてその時、はっきりと、彼女の口から「代表なんかどうでもいい」との言葉が漏れた。
理由を訪ねると、次のように答えた。

「だって代表を名乗るからにはその国で最高の選手が選ばれるべきでしょ?スペイン代表はそうじゃないんだもの。えっ?なんでかって?あなたスビサレッタってしってる?彼が長い間スペインのゴールマウスを守ってたでしょ、でも、あんなのおかしいわよ。じゃあ誰が出るべきだったかって?そりゃブージョよブージョ、パコ・ブージョ、レアル・マドリードのキーパーだった、もちろん知ってるわよね。だって彼の方が明らかに上だったのに、代表で先発するのはいつもスビサレッタ。そんなチームを応援できるわけがないじゃない。」

嘘のように見事なマドリディスタ的解答だが、彼女は心底そう思っているようだった。

いまだに東洋人がサッカー場に出入りすると、「おまえは韓国人なのか?」と聞かれる。そして「そうではない。」と答えると、延々とあの試合、つまり2002年のワールドカップにおける韓国対スペインの試合に対する愚痴を聞かされる。
「やつらは盗っ人だ」「あの審判を見たか」「あんな恥知らずな試合はない」等々、様々な言葉を聞くが、そんな彼らが代表を心底応援していたわけでない。
「心底応援する」とは本当に代表が自分の一部であると感じ、その勝利による喜びだけでなく、敗北による悲しみ、怒り、やるせなさ、全てを自分のこととして受け止める姿勢を指す。
しかし、マドリードにおいて代表に対するそのような思いを感じることはない。代表の敗戦の後は、お決まりの、「他人に対する責任のなすりつけ」と「自分が傷つくほど応援しなくてよかった安堵感」が街に充満する。

一度代表が国際舞台で優勝すれば、このような及び腰ともいえる態度に変化がみられるだろう。
しかしながら、スペイン代表が勝てない理由の一つとしてとして、まさにこの、「国民からの支援不足」が挙げられているのである。

卵が先か鶏が先か、勝利の日はまだまだ遠いのであろうか。

(2021/07/01)

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